胃潰瘍が発症する原因と生活習慣を見直す重要性

院長 柏木 宏幸所属学会・資格
- 日本内科学会 総合内科専門医
- 日本内科学会 内科認定医
- 日本消化器病学会 消化器病専門医
- 日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
- 一般社団法人日本病院総合診療医学会
認定病院総合診療医 - 難病指定医
- がん診療に関わる医師に対する緩和ケア 研修会 修了
- PEG・在宅医療研究会 修了証
胃潰瘍は、胃の粘膜が傷つき、深い潰瘍(ただれ)ができる疾患です。症状が進行すると、激しい胃痛や吐き気、出血を伴うこともあり、放置すると重大な合併症を引き起こす危険性があります。
胃潰瘍の発症には、ピロリ菌感染やストレス、不適切な食生活など、さまざまな要因が関与しています。しかし、生活習慣を見直すことで、胃潰瘍の発症リスクを減らし、症状の悪化を防ぐことが可能です。本記事では、胃潰瘍が発症する原因と、予防・改善のための生活習慣の重要性について詳しく解説します。
胃潰瘍とは?基本的な病態と特徴
①胃潰瘍とは?
胃潰瘍とは、胃の粘膜が深く傷つき、組織が欠損することで発生する消化器疾患です。胃の内壁は、胃酸から自身を守るために粘液を分泌し、防御機能を持っています。しかし、何らかの原因でこの防御機能が低下し、強い酸性を持つ胃酸が粘膜を傷つけることで潰瘍が形成されます。
②胃酸と粘膜のバランスが崩れると発症する
胃は通常、強い酸性の胃液(pH 1~2)を分泌して食べ物を消化しますが、その一方で、胃の内壁は粘液によって保護されています。この 「攻撃因子(胃酸)」と「防御因子(粘膜)」のバランス が崩れることで、胃潰瘍が発症します。
【攻撃因子(胃を傷つける要因)】
- 胃酸、ペプシン(消化酵素)の過剰分泌
- ピロリ菌感染による炎症
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の長期使用
- 喫煙や飲酒
【防御因子(胃を守る要因)】
- 粘液や重炭酸イオンの分泌(胃酸の中和)
- 粘膜の修復能力(血流による栄養供給)
- 粘膜細胞の再生能力
通常、これらの因子はバランスを保っていますが、ストレスや薬剤の影響によって防御因子が弱まると、胃潰瘍が発生しやすくなるのです。
③胃潰瘍の種類と特徴
胃潰瘍は、発症の原因や病態に応じていくつかの種類に分類されます。
ピロリ菌関連胃潰瘍(最も一般的)
ピロリ菌が慢性的に胃の粘膜を刺激し、炎症を引き起こすことで潰瘍が発生します。除菌治療を行うことで再発リスクが大幅に低下させることが可能です。
NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)関連胃潰瘍
ロキソニンやイブプロフェンなどの鎮痛剤が、胃の粘膜を保護する物質(プロスタグランジン)を減少させることで発症します。高齢者や持病のある人は特に注意が必要な胃潰瘍です。
ストレス性胃潰瘍
極度のストレスが原因で自律神経が乱れ、胃酸分泌が過剰になることで発生する胃潰瘍です。特に、手術後の患者や重度のストレスを抱える人に多いことが特徴です。
悪性腫瘍による潰瘍(がんによる潰瘍)
一般的な胃潰瘍とは異なり、胃がんが原因で粘膜が破壊されることによって発生します。通常の内服治療では改善しない場合は、がんの可能性を疑う必要があるため、専門医による判断が必要です。
④胃潰瘍の発症率とリスク層
日本では年間約10万人が胃潰瘍で入院しています。50歳以上の人に多いが、若年層でもピロリ菌感染があれば発症の可能性があります。特にストレスの多い職業の人(ビジネスパーソンなど)に発症率が高いため、現代社会においては非常に危険性が高まっています。
胃潰瘍の主な原因とは?
胃潰瘍の発症には、ピロリ菌感染・ストレス・食生活・薬剤の影響など、複数の要因が関係しています。これらの要素が重なることで、胃の粘膜が傷つき、潰瘍が発生しやすくなるのです。
①ピロリ菌感染
ピロリ菌(Helicobacter pylori)は、胃の粘膜に住み着く細菌で、胃酸を中和する酵素を分泌しながら生存する特徴があります。この菌が胃の粘膜を慢性的に刺激し、炎症を引き起こすことで、胃潰瘍の発症リスクが高まるとされています。
【ピロリ菌感染の主な特徴】
- 日本では50歳以上の約50%が感染している(若年層の感染率は低下傾向)
- 感染すると胃の粘膜が萎縮し、胃がんのリスクも上昇する
- 除菌治療を行うことで、胃潰瘍の再発リスクを低減できる
②ストレスによる胃酸分泌の増加
ストレスは、自律神経のバランスを崩し、胃酸の分泌を過剰に促すことで胃粘膜を傷つけます。特に、慢性的なストレスを抱えている人は、胃の防御機能が低下しやすく、胃潰瘍の発症リスクが高まります。
③不適切な食生活
- 脂っこい食事 → 胃酸の分泌を増やし、胃の負担を増大
- 過度なアルコール摂取 → 胃粘膜を直接傷つける
- 刺激物(香辛料・コーヒーなど) → 胃の炎症を促進
④非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の影響
鎮痛剤(イブプロフェン・ロキソニンなど)を頻繁に使用すると、胃粘膜を保護する物質(プロスタグランジン)が減少し、胃潰瘍のリスクが高まることが知られています。
胃潰瘍の症状と進行度による違い
胃潰瘍の症状は、軽度なものから重度のものまで様々です。初期症状の段階で適切な治療を行うことで、進行を防ぐことができます。
①軽症の胃潰瘍
- 空腹時や夜間に胃の痛みを感じる
- 胃もたれや食欲不振が続く
- 胸やけや吐き気がある
②中等症の胃潰瘍
- 食後に強い胃痛を感じる
- 黒いタール状の便(消化管出血の兆候)が見られる
- 吐血を伴うことがある
③重症の胃潰瘍(合併症を伴う)
- 胃穿孔(胃に穴が開く) → 突然の激しい腹痛、ショック状態
- 多量の出血 → 吐血や貧血、血圧低下
- 胃の出口の狭窄(幽門狭窄) → 食べ物が胃から腸に流れにくくなり、嘔吐が続く
胃潰瘍の診断方法と検査の流れ
胃潰瘍を診断するためには、専門的な検査が必要です。
①上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)
胃潰瘍の診断には、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)が最も有効です。カメラで胃の内部を直接観察し、潰瘍の大きさや状態、良悪性を確認します。
②ピロリ菌検査
ピロリ菌が関与している場合は、除菌治療を行うことで再発を防ぐことが可能です。
ピロリ菌の検査方法には、尿素呼気試験、血液検査、便検査などがあります。
胃潰瘍の治療法:薬物療法とピロリ菌除菌
胃潰瘍の治療は、薬物療法が中心となります。
①胃酸を抑える薬(Pcab・PPI・H2ブロッカー)
- Pcab(ボノプラザン) → 胃酸分泌を強力に抑える
- PPI(プロトンポンプ阻害薬) → 胃酸分泌を強力に抑える
- H2ブロッカー → 胃酸の分泌を軽減し、潰瘍の回復を促す
②ピロリ菌の除菌治療
- 抗生物質とPcabまたはPPIを組み合わせた3剤併用療法が一般的
- 成功率は80~90%と高く、再発防止に有効
胃潰瘍予防のために見直すべき生活習慣
胃潰瘍を予防するためには、日々の生活習慣の改善が欠かせません。
①胃に優しい食生活
- 刺激物を控える(唐辛子・カフェイン・アルコール)
- 食事はよく噛んでゆっくり食べる
- 就寝前の食事を避ける(胃酸逆流の予防)
②ストレスの管理
- 適度な運動(ウォーキング・ヨガなど)を習慣化
- 睡眠時間をしっかり確保する
③禁煙・節酒
- タバコは胃粘膜の修復を妨げるため、禁煙が望ましい
- 過度なアルコール摂取は胃の炎症を悪化させる
④胃に負担のかかる鎮痛薬の過度な使用を控える
ロキソプロフェンなどのNSAIDs使用による潰瘍を起こすことも多いことから、鎮痛薬を使用する機会が多い場合には、胃薬の併用や胃粘膜傷害を起こしにくい鎮痛薬を使用する
病院を受診すべき危険なサインとは?
胃潰瘍は、軽症の場合は市販の胃薬で一時的に改善することがありますが、以下の症状が見られる場合は速やかに医療機関を受診する必要があります。
①胃痛が長期間続く場合
- 1週間以上胃の不快感や痛みが続く
- 食事をすると悪化する、または逆に空腹時に痛みが強くなる
- 市販の胃薬を服用しても改善しない
②黒い便(タール便)が出る
- 黒色便(タール便)は、消化管出血のサイン
- 消化された血液が腸を通過すると黒色に変化するため、胃や十二指腸で出血している可能性が高い
③吐血(血を吐く)や血混じりの嘔吐
- 鮮血やコーヒー色の嘔吐物がある場合、胃潰瘍が出血している可能性が高い
- 吐血がある場合は、救急病院への受診が必要
④突然の激しい腹痛
- 胃穿孔(胃に穴が開く)が起こると、激しい腹痛とショック症状を伴う
- この場合、緊急手術が必要となるため、すぐに救急車を呼ぶ
⑤食欲不振や体重減少が続く
長期間にわたり食欲が低下し、体重が減少する場合は、慢性的な胃炎や胃がんの可能性も考えられます。
⑥胸やけや胃の不快感が頻繁に起こる
逆流性食道炎と併発することが多いため、胃潰瘍と同様に検査が必要です。
⑦40歳以上で初めて強い胃の不調を感じる場合
40歳を超えて急に胃の調子が悪くなった場合、胃がんなどの疾患が関与している可能性があるため、精密検査を受けるべきです。
【病院ではどんな検査が行われるのか?】
病院では、以下の検査を行い、胃潰瘍の有無や重症度を確認します。
- 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ) → 胃の内部を直接観察し、潰瘍の有無を確認
- ピロリ菌検査 → 胃潰瘍の原因となるピロリ菌の有無をチェック
- 血液検査 → 貧血の有無や炎症の程度を確認
これらの検査を受けることで、早期に治療を開始し、重症化を防ぐことができます。
胃潰瘍に関するよくある質問
胃潰瘍は自然に治ることはある?
軽度の胃潰瘍(表層潰瘍)の場合、胃粘膜の自己修復機能により自然に治癒することがあります。しかし、ピロリ菌感染やNSAIDs(鎮痛剤)の使用が続く場合は、潰瘍が悪化する可能性が高いため、医療機関での診断と適切な治療が推奨されます。
【自然治癒が難しいケース】
- 胃酸の分泌が多く、粘膜の修復が追いつかない場合
- すでに出血や穿孔(穴が開く状態)を伴っている場合
- ピロリ菌感染がある場合(除菌治療が必要)
胃潰瘍の人はコーヒーを飲んでも大丈夫?
コーヒーにはカフェインが含まれており、胃酸分泌を促進する作用があるため、胃潰瘍のある人には推奨されません。特に空腹時にコーヒーを飲むと、胃の負担が大きくなります。
しかし、カフェインレスコーヒー(デカフェ)であれば胃への刺激が少ないため、適量であれば問題ありません。コーヒーがどうしても飲みたい場合は、食後に少量をゆっくり飲むようにしましょう。
胃潰瘍の治療中にアルコールを飲んでもいい?
胃潰瘍の治療を最優先するなら、アルコールは完全に控える方が安全です。アルコールは胃の粘膜を直接刺激し、炎症を悪化させるため、治療中は避けるのが理想的です。特に、ビールや日本酒、ワインなどの酸性度が高いお酒は、胃酸の分泌を増やし、症状を悪化させる可能性があります。
胃潰瘍再発予防としては、胃に優しいおつまみ(豆腐や温野菜など)と一緒に飲むことをおすすめします。
胃潰瘍は遺伝するの?
胃潰瘍そのものが遺伝するわけではありませんが、ピロリ菌感染は家族内で感染しやすいため、結果的に胃潰瘍の発症リスクが高まることがあります。
親が胃潰瘍や胃がんを経験している場合、以下の点に注意が必要です。
- ピロリ菌の検査を受ける(陽性なら除菌治療)
- 食生活を見直し、胃に負担の少ない食事を心がける
- 定期的な胃カメラ検査を受け、早期発見に努める
胃潰瘍の薬を途中でやめてもいい?
胃潰瘍の薬(PPIやH2ブロッカーなど)は、医師が指示した期間しっかり服用することが重要です。症状が改善したからといって自己判断で中断すると、再発しやすくなり、症状が悪化するリスクがあります。
特に、ピロリ菌除菌治療を行っている場合、抗生物質を途中でやめると除菌に失敗し、耐性菌が発生する可能性もあるため、必ず医師の指示に従うことが大切です。
胃潰瘍になったら手術が必要?
ほとんどの胃潰瘍は、薬物療法(胃酸を抑える薬・ピロリ菌除菌治療)で改善できます。しかし、以下のケースでは手術が必要になる可能性があります。
- 胃穿孔(胃に穴が開く) → 緊急手術が必要
- 大量の胃出血 → 内視鏡止血が難しい場合、手術で止血する
- 悪性腫瘍による潰瘍(胃がんなど) → 胃の一部を切除する場合がある
- 大半の胃潰瘍は手術なしで治療できるため、早期に病院を受診することが重要です。
胃潰瘍の治療が終わったら、すぐに好きなものを食べてもいい?
治療が終わっても、胃の粘膜が完全に回復するには時間がかかるため、いきなり刺激の強い食事に戻すのは避けるべきです。
【回復期におすすめの食事】
- お粥やうどんなどの消化の良い炭水化物
- 白身魚や豆腐などの低脂肪のタンパク質
- 柔らかく煮た野菜(大根・にんじんなど)
一方で、脂っこいもの、辛いもの、アルコール、炭酸飲料などは控え、徐々に通常の食事に戻すことが大切です。
胃潰瘍と十二指腸潰瘍は何が違うの?
どちらも消化管の潰瘍ですが、発症しやすい場所や症状に違いがあります。
| 項目 | 胃潰瘍 | 十二指腸潰瘍 |
|---|---|---|
| 発症部位 | 胃の粘膜 | 十二指腸(小腸の最初の部分) |
| 原因 | ピロリ菌、NSAIDs、ストレス | ピロリ菌、胃酸過剰分泌 |
| 痛みの特徴 | 食後30分~1時間で痛む | 空腹時・夜間に痛む |
| 発症しやすい年齢 | 40~60代 | 20~40代 |
十二指腸潰瘍は若年層に多く、胃酸分泌が多い人がなりやすい傾向があります。一方、胃潰瘍は加齢とともにリスクが高まるため、中高年ではより注意が必要です。
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